■ 日本の製紙業界の動向

日本の製紙業界は、規模やシェア拡大を目的とした企業再編を続けてきました。再三の合併を経て、1996年に新王子製紙と本州製紙が合併。さらに、2001年に大昭和製紙と日本製紙が統合し、現在の2強体制が確立しました。

しかし、近年は関連会社化や部分的な業務提携にとどまり、かつてのような会社丸ごとの合併・統合は影を潜めています。紙の国内需要が縮小するなか、製紙各社はM&Aよりも、自社内の生産体制の縮減や再構築に注力しています。余剰な設備・人員を大量に抱え込まないことを、経営上の重要課題と位置づけています。

製紙大手6社の業績(2024年3月期)

会社名 売上高 営業利益
王子ホールディングス 1兆6,962億円
(▼0.6%)
726億円
(▼14.4%)
日本製紙 1兆1,673億円
(1.3%)
172億円
(―)
レンゴー 9,007億円
(6.5%)
488億円
(88.2%)
大王製紙 6,716億円
(3.9%)
143億円
(―)
北越コーポレーション 2,970億円
(▼1.4%)
152億円
(▼11.7%)
三菱製紙 1,934億円
(▼7.7%)
54億円
(5.6倍)

※カッコ内は前期比、▼はマイナス

製紙大手6社の業績(2020年3月期)

会社名 売上高 営業利益
王子ホールディングス 1兆5,076億円
(▼2.8%)
1,061億円
(▼3.7%)
日本製紙 1兆439億円
(▼2.3%)
350億円
(78.7%)
レンゴー 6,837億円
(4.7%)
412億円
(63.0%)
大王製紙 5,464億円
(2.3%)
306億円
(2.5倍)
北越コーポレーション 2,646億円
(▼4.1%)
112億円
(▼10.6%)
三菱製紙 1,945億円
(▼4.6%)
19億円
(―)

※カッコ内は前期比、▼はマイナス


紙の需要縮小

21世紀に入って、紙の総需要は減少傾向になりました。ペーパーレスやデジタル化の進展により、新聞、出版、広告、チラシなど紙の消費量が年々減少しています。とりわけ国内紙・板紙生産の4割を占める印刷・情報用紙は、2000年をピークに減り続けています。

業界団体の日本製紙連合会によると、国内の紙総需要はピークだった2006年から2割近く減っています。

海外に活路

こうしたなか、製紙各社は海外展開に活路をみいだそうとしています。たとえば東南アジアへの輸出や工場進出に積極的に取り組んでいます。王子ホールディングスやレンゴーなどは段ボール原紙の製造拠点を拡充しました。東南アジアでは生活水準が向上し、衛生意識が高まり、衛生用紙の需要が伸びています。世界生産の約3割を占める中国勢も東南アジアでの攻勢を強めています。競争は激しくなっています。

大手が一斉に大幅値上げ

印刷用紙が2割、情報用紙は1割

製紙大手の王子製紙、日本製紙、大王製紙の3社は2019年1月から、書籍やチラシなどに使う印刷用紙とコピー機向けといった情報用紙を値上げしました。値上げ幅は印刷用紙が2割以上、情報用紙は1割以上となりました。

3社とも古紙や物流費の上昇、製造工程で使用する石炭など燃料の高騰を理由に挙げ「コスト削減に努めてきたが、自助努力では収益の確保が困難となった」と訴えました。

ネット通販や引っ越し業者に影響

古新聞に代表される古紙はコピー用紙や段ボール、新聞用紙などにリサイクルされます。古紙価格の上昇を受けて段ボール価格も上昇し、段ボールに入れて配送する大型ペットボトル飲料の値上げの一因にもなりました。段ボールを大量に使うインターネット通販や引っ越し業者にコスト負担を強います。

新聞用紙も

さらに製紙大手3社は2019年4月から新聞用紙も値上げしました。一部の新聞社は製紙会社と協議する中で紙の調達コスト増が避けられないと判断し、先行して購読料引き上げに踏み切りました。

米中摩擦の余波

紙の値上げに拍車を掛けたのが米中貿易摩擦でした。中国は自国で古紙などの製紙原料をまかないきれず、主に米国から古紙を輸入してきました。しかし、米中対立で調達環境が悪化したため日本からの輸入にシフトしました。

日本からのの新聞古紙の輸出量は2018年に倍増しました。このあおりから日本国内で古紙が品薄になりました。

新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」

世界的な脱プラスチックの流れは製紙会社にとって追い風になっています。とりわけ製紙業界が大きな期待を寄せるのが、新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」です。

脱プラスチック
強さは鉄の5倍、重さは5分の1

セルロースナノファイバー(CNF)は、プラスチックの代わりになると期待されている優れた新素材です。木を原料としています。強さは鉄の5倍、重さは5分の1という優れた特徴を持っています。

原料は紙と同じ木材

紙と同じ原料の木材パルプを、薬剤や機械処理でナノサイズ(10億分の1メートル)まで細かく解きほぐして作ります。いわゆる「バイオマス素材」の一種です。

様々な用途

王子ホールディングス(HD)や日本製紙、大王製紙、北越コーポレーションなど製紙各社がこぞって開発にしのぎを削っています。大人用紙おむつ、トイレ掃除シート、インキ増粘剤などにいち早く使用されました。他にも様々な用途が期待されており、各社は異業種の企業と提携し、用途開発に取り組んでいます。

化粧品の添加剤にも

CNFの新たな用途としては、例えば、樹脂と混ぜれば、軽くて強度の高い成形部材として部品などに使えます。増粘性や粒子分散安定性に優れるため、化粧品の添加剤にも適しています。空気を通しにくいことから、食品などの鮮度を保つ包装フィルムでの使用も想定されます。

ガラスの代替

特に透明性という特徴は、炭素繊維やガラス繊維などほかの高強度繊維にはない性質です。その特性を最大限に生かせるのが、透明なポリカーボネート樹脂との組み合わせによるガラスの代替です。

CNFを補強材として混ぜれば、ポリカーボネート樹脂の透明・軽量という特徴を維持したまま強度が大幅に向上します。このポリカ・CNFの複合材によって、軽量化ニーズの高い自動車の窓や液晶パネルでの採用が期待されています。


■ エクシブ投資顧問(旧株オンライン)の推奨株の評判・口コミ

「エクシブ投資顧問」(旧株オンライン、河端哲朗氏)の過去の推奨株の評判・口コミ。高知のニッポン高度紙工業(東証ジャスダック上場)などを取り上げます。


ニッポン高度紙工業(2020年8月推奨)

業種 製紙・電子部品メーカー
推奨時点の株価
(推奨日の始値)
1,300円
(2020年8月4日)
推奨後の高値 2,434円
(2020年11月25日)
上昇倍率 1.8倍
現在の株価 こちら→
市場 ジャスダック
(1996年2月、店頭市場(現在の東証ジャスダック)に株式公開)
証券コード 3891


ニッポン高度紙工業とは

ニッポン高度紙工業は、高知県の伝統工芸品「土佐和紙」の技術を生かし、電子部品をつくるメーカーだ。

主力製品は「セパレーター」という部品。セパレーターとは、電池のプラスとマイナスを分離する材料だ。「電解コンデンサー紙」とも呼ばれる。正式な名称は「アルミ電解コンデンサ用セパレーター」。

この部品は紙でできている。ニッポン高度紙工業は、この分野の世界市場で高いシェアを占める。

セパレーターの厚みはわずか15~130マイクロメートル(髪の毛1本の太さくらい)。テレビ、エアコン、冷蔵庫、パソコンなど、多くの電子機器に使われている。

■ 土佐和紙

土佐和紙は、千年以上の歴史がある。日本の和紙のなかでも「薄くて、丈夫」という特徴を誇っている。

高知県の中央を流れる仁淀川(によどがわ)の清流の恩恵によって生まれた。高知の気候が温暖で、和紙の原料である「コウゾ」や「ミツマタ」の生育に向いていることも、土佐和紙が発展した理由だ。

土佐典具帖紙(てんぐじょうし)

この土佐和紙の技術を生かして、明治時代に「土佐典具帖紙(てんぐじょうし)」という製品が生み出された。

厚さが普通の和紙の半分という画期的な和紙だ。厚さは、わずか0・03ミリだった。

その薄さは、透明に近いことから、「カゲロウの羽根」とも呼ばれた。カゲロウという昆虫は、羽根が透明で鮮やかなことで有名だ。

タイプライターの用紙として大ヒット

土佐典具帖紙はタイプライターの用紙として最適だった。

大正から昭和にかけて、アメリカに輸出された。輸出産業の花形となった。土佐の名前を全世界にとどろかせた。

■ 「高度紙」の誕生

日米関係の悪化

1930年代になると、日本が海外への侵攻を強め、日米関係は急速に悪化した。日米間の貿易も急速に縮小し、土佐和紙は輸出先だった米国市場を失った。

「ビスコース加工紙」を開発

困った高知の製紙業者は、典具帖紙の新しい用途を探った。「ビスコース」というセロハンの原料を加工し、典具帖紙を補強してみた。すると、熱に強く、ぬれても破れにくくなった。

これによって「ビスコース加工紙」という新しい紙が生まれた。水や熱に強い“魔法の紙”として重宝がられた。別名「高度紙」と呼ばれた。

最初は煎(せん)じ薬の袋として売り出した。主に漢方薬のせんじ袋などに利用されていたという。

■ 会社設立

ニッポン高度紙工業は、高知の地元業者から生まれた「ビスコース加工紙」を製造・販売する会社として設立された。1941年(昭和16年)のことだ。日米戦争(太平洋戦争)が目前の時期である。設立母体は、地元製の紙業者の有志たちだった。

薄くて丈夫な土佐和紙をセロハン原料のビスコース液に浸して酸で固め、水と熱に強い紙を生産した。この技術は、今もティーバッグなどに使われるという。当時不足していた綿の代替品として、ハンカチなどの生産を始めた。

日本海軍

さらに、電波探知機(レーダー)の開発を進めていた日本海軍が「コンデンサーの絶縁体として使えないか」と着目した。それまでは絶縁体にガーゼを使っていたが、紙に代えられないか、と考えたのだ。

これを受けて、ニッポン高度紙工業は、紙によってプラスとマイナスのアルミ箔(はく)を隔てて、ショートを防ぐ技術を開発した。1943年、今でも主力事業である「セパレーター」の生産を開始。エレクトロニクス分野への進出を果たした。

日本の家電製品の世界進出を支える

戦後、家庭電化の進展とともに、コンデンサー紙の需要も伸びていく。ニッポン高度紙工業は改良を繰り返し、日本の家電製品の世界進出を支えていった。

1963年に台湾などに輸出を開始。その後、アメリカ、韓国など世界各国に輸出するようになった。世界シェアでトップに立った。

セパレータ以外の製品開発も進めた。1987年には耐熱性樹脂を使った回路基板の製造を始めた。

■ 世界トップの技術力

不純物が少ない

コンデンサー紙(セパレーター)の成功のカギは、絶縁不良の原因になる不純物をいかにゼロに近づけるかだ。

製紙の際、水に塩素分などが入るとアルミ箔をさびさせる。コンデンサーの寿命にもかかわる。

製造過程で水に溶けた紙の繊維から水を抜いてシートを作る。水に溶けた状態でかき回して不純物を沈めたり、浮かせて分離する。

同社は、不純物を取り除くため、純度の高い水を使って、煮だしをする方法を編み出した。

これによって不純物の含有率が欧米製より際立って少なくなった。これが世界トップに立った理由の一つだ。

機械生産への転換

手すきから機械生産への転換も大きな課題だった。

鉄分が混入する恐れがあったため、水に触れるところは木かアルミに換え、枠組みはコールタールを焼き付けるなど工夫した。

二重紙の成功

二重紙の製造にも成功した。アメリカでは高電圧に耐える硬い紙が求められた。電解液のしみ込む軟らかい紙の二つを張り合わせたものが使われていた。

すきながら、2つの紙を張り合わせる新技術に挑戦。紙に小さい割れ目ができないよう、水分をとるノウハウを開発して、1961年、製造を始めた。

■ 世界シェア1位の小さな巨人

その後も、コンデンサー紙で世界一のシェアを走り続けた。市場占有率(シェア)は世界の70%、日本国内では95%に達した時期もあった。

いつしか「小さな巨人」あるいは「小さな池に住む大きなカエル」と呼ばれるようになった。大手が参入するには市場が小さいこともあり、圧倒的な優位性を保った。

家電メーカーなどユーザーからの要望にきめ細かくこたえてきた。お客さんの要望に応じた製品を、職人かたぎの技術者が、とことん開発し続けてきた。

それが、ニッポン高度紙工業の座を盤石にした。電解コンデンサーだけで品種は数百あるという。

株式公開

1996年に店頭市場(現在の東証ジャスダック)に株式公開を果たした。


■ 地方の優れた製紙・和紙企業

■ 山伝製紙

山伝(やまでん)製紙は、越前和紙の製造メーカーである。本社は、福井県越前市南小山町。山口和弘社長。

紙繊維の織物壁紙

山伝製紙は紙繊維系織物壁紙の開発と事業化を図ってきた。製造、品質管理、海外販売を行う企業や、商品企画、デザイン、日本国内販売を行う企業と連携した。それによって、これまでになかったデザイン性を有し、環境面・健康面に優れた自然素材100%の紙繊維系織物壁紙(ネルスーム)の製造・販売に取り組んできた。ふくい産業支援センターの支援も受けた。

はがせる壁紙やふすま紙

水分を吸収しても伸縮しにくい和紙を開発した。この和紙を使って短時間で貼ったり、剥がしたりすることが可能な壁紙やふすま紙を商品化した。

通常の和紙は水分を吸収すると伸び、乾くと縮む。最大で7~8%伸び縮みするという。壁に貼った場合、のりが乾くと和紙が縮むため反り返ったり、しわになったりする。

和食レストランなど向け

開発した和紙は、ポリエステル樹脂の繊維を混ぜた原料を使うことで伸縮率を0・1~0・2%に抑えられる。貼った後の伸縮がほぼなくなるため、従来よりも接着力の弱いのりを使うことが可能となり、簡単に剥がしやすくなるという。商品化までに10年を要したという。

山伝製紙が製造した和紙の壁紙やふすま紙に加工業者が模様を付け、卸会社が販売している。

需要を見込んでいる飲食店は主に和食レストラン。四季ごとに内装を変えたいといった要望があり、簡単に貼ったり、剥がしたりできることで改装期間が短くて済み、回転率向上につながる。